感想 『ぼくたちのリメイク』 創作に興味を持つ人、携わった人全ての心を揺さぶる物語

2019年10月16日

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先日、マガポケで「ぼくたちのリメイク」コミカライズが配信されているのを知り、その流れを原作を読んだ。
原作者の木緒なち氏が、丸戸史明をリスペクトしている、と述べたことがあるらしく、丸戸作品好きが高じて記事を書いた人間としては、どんな筆致か気になり、原作を手に取ったという次第だ。

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いざ読んでみると、一巻から圧倒されてしまった。
天才クリエイター達との青春劇で終わらないのは勿論、
映画において裏方、雑用と認識されがちな「製作」の役割を役回りを「立派なクリエイター」と言わしめたのは、唸るしかなかった。

加えて、創作活動をしたことのある人なら誰もが抱える悩みを、綺麗事でなく、しかし優しい救いの言葉をもたらしたのも、思わず天を仰いだ。「冴えない彼女の育て方」や「SHIROBAKO」が好きだった人なら、間違いなく刺さる物語だろう。

なぜこの作品をもっと早く知らなかったのか。強い後悔の念を覚えるほどに、情熱的な物語だった。
「このラノベがすごい!」二年連続トップ10というのも納得な──いや、その数字を抜きにしても、紛れもない名作である。

著者概要  木緒なち

著者は「木緒なち」氏。デザイナー兼作家兼シナリオライター。
エロゲ時代はゲームディレクターとしても活動しており、本作では、当時の苦労が垣間見える描写はしばしば。
デザイナーとしては「ひだまりスケッチ」のデザイン担当などの活動から幅を広げ、デザイン会社を立ち上げる。そんなデザイナーとしてのノウハウは、LINEノベルから発売される著書「すべては装丁内」で緻密に描かれている。

あらすじ


主人公、橋場恭也はしがないゲームディレクター。携わった作品はことごとく凡作で、会社も倒産。一方で輝かしい活躍を見せる天才クリエイター達を横目にふて寝して目覚めると、なぜか十年前の大学入学時に戻っていた。
落ちたはずの芸大に受かり、今度こそ立派なクリエイターになるんだ、と意気込む恭也。
男女四人のシェアハウス生活が始まり、ヒロイン、志野亜貴のイラスト作業風景を見た恭也は絶句する。
そこに描かれていたのは紛れもなく、後の有名イラストレーター、「秋山シノ」の絵そのもので……。

舞台は2006年、大阪にある芸術大学。
映像学科に所属した恭也は、十年後「プラチナ時代」と呼ばれることになる天才クリエイターの卵たちと共に、就職率5%に満たない狭き門に挑んでいく。

才能とは何か

主人公、恭也は10年前からタイムスリップしたこともあり、ゲームディレクターとして、経験値のアドバンテージもある。
なら、「強くてニューゲーム」だと思うのが自然だが、そう上手くはいかなかった。

一八歳の時点で、人の何倍も勉強してる人は存在する。

野心の塊で、邦画洋画問わず知識を網羅している、河瀬川英子。
聞き慣れないシナリオ論をさらりと答える、鹿苑寺貫之。

大学から何かを積み上げるのではなく、「既に積み上げている」人たちと、自分だけの武器を見つけられてない恭也。その違いが、才能の差として、彼にのしかかっていく。
ゲームディレクターとして、足りない人の穴を埋める、それはエロゲや映画製作ではありふれた話で、恭也はそれを担い続けてきた。そんな損な役回りばかり器用になっていた彼は、人生をリメイクしても何者にもなれないのだろうか?
この部分は、クリエイターでなくても、ただ雑務に追われてきた仕事と重なったりして、ぐさりと突き刺さる内容だ。

創作物の真のゴールとは何か


「いや、なあ恭也、俺は別に何もかも反対するつもりはないんだ」
「ただ、あの脚本は何日もかけて悩んで考えて書いたものなんだ。それを時間が足りないからと言われて、すぐに『はい、わかりました』とは削れないだろ?」

「ぼくたちのリメイク 十年前に戻ってクリエイターになろう!」より

クリエイターもので難関として立ち塞がるのは、「作品が完成しない」「スランプに陥る」などといった、創作物が生まれ落ちるまでのプロセスを描いたものが多い。
しかし、『ぼくリメ』は少し内容が異なってくる。
チーム単位で取り掛かる映像制作は、個人制作ならまだしも、クリエイターとして才能があれば解決する問題ではなかったのだ。

クリエイターとして絶対に譲れないプライド。
渾身の創作物を、決められたスケールに削り落とす必要性、その責任を一身に背負うこと。
撮影間近になって起きるアクシデント。

思い描いた理想系とは程遠いに状況に立たされても、諦めず、アイデアを捻り出し、もがいて、足掻いて、締切までに「完成」させる。そんな映像制作におけるメイキング部分のリアルさを多角的に掘り下げられていて、私たちが何気なく見ている映画が人の手に届くまで、どれ程の苦労と熱量が込められているだろうか、と考えさせられてしまう。

まとめ

圧巻、その一言に尽きる一冊だった。

主人公の恭也は、クリエイターながらも、読者の目線に一番近い形で描かれたキャラクターだ。
何者にもなれなかった彼は、自分の才能・役割なんて分からなくて。それでもあらゆる手を尽くして、才能ある仲間たちの思いを形にしていく。例え裏方、雑用と呼ばれるような仕事であっても、彼の姿は、立派なクリエイターに見えたのだ。

何者か分からなくても、何者かになっている。

そんな絶妙なバランスを、しかも一巻から見せられたのだから、震えるしかない。

この先も続刊を追い続けて、彼らの人生がリメイクされていく末を見届けたい。

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