感想『勇者の君ともう一度ここから』 救った世界から始まる、剣士と勇者の物語

2019年10月16日

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勇者の君ともう一度ここから   みかみ てれん

──読み終えたとき、ソードアードオンライン1巻を読んだ時以来のワクワク感を覚えた。

リリースされて間もない小説アプリ、LINEノベル。

LINEノベルだけで読める作品もあり、『エロマンガ先生』『いなくなれ、群青』など、ラノベ文芸問わず既存の名作も読める、二つの特徴を持ったアプリだ。

生まれて間もないレーベルのせいか、ランキングを見ると、未知の新作より、既存の名作の方が多くランキングに上っていたりする。

そんな中、LINEノベル発の作品で、既存の名作を押しのけランキング上位に鎮座しているのを見つける。

それが、みかみ てれん著の『勇者の君ともう一度ここから』(以下『君ここ』)だった。

みかみ てれん氏の同人作品に触れたことのある私は、興味本位で作品ページを開く。

そして、表紙のイメージから予想もつかない世界観、引力に、一瞬で引き込まれていくことになったのだ。

著者概要 みかみ てれん氏

著者は「みかみ てれん」氏。

商業では『おとめバレ』原作、『プラネット・ウィズ』ノベライズなど、コメディからシリアスまで幅広く活動している。

同人では百合作家として名高い。『女同士とかありえないでしょと言い張る女の子を、百日間で徹底的に落とす百合のお話』など、濃厚ながらも攻めた路線の百合作品をKindleで出しており、Kindleのランキング1位に度々君臨するなど、百合界隈を賑わすほどの存在だ。

また、「小説家になろう」で、ジャンルを問わず多種多様な作品を投稿していた経歴もある。

物話の概要

本題の作品紹介に戻ろう。

物語は、いわゆる王道ファンタジーだ。特徴的なのは。平和の訪れた世界から始まるところ。

世界を脅かす存在、狂神を勇者セラフィルナの犠牲によって倒したことで、平和が訪れる。

かつて勇者と旅を共にしていた隻腕の剣士、ジャンは、その報せにどこか空虚さを感じながら、生まれ育った村で余生を過ごそうとしていた。

腕を失い、大切に思っていた勇者も死んだ。そんな生きる意味さえも失いかけてところに、王国の理術師、メルセデッサが訪れる。


「剣神ジャン=ブレイディアよ、私と共に来てくれ」
「勇者セラフィルナは存命している。彼女を救うために、キミの力を貸してほしい」


ファンタジー作品では、倒すべき敵……魔王などを倒すことがゴールとして示されることが主だ。

しかし、『君ここ』は、それにあたる存在……狂神が倒された世界から物語が展開されていく。

つまり、ファンタジーにおけるエンディング・エピローグをスタート地点として、一つの冒険譚まで昇華させた作品なのだ。

失ったものを取り戻す物語

「……わたしも、あなたのことが、好き。だから、一緒にはいられない。あなたはあなたの人生を生きて、ジャン」

物語が始まった時点で、ジャンやセラフィルナ(以下セラ)は、多くのものを失い、重荷を背負ってる。

剣士としての存在価値であった、ジャンの右腕。側に居られず、セラひとりに使命を背負わせてしまった後悔。

狂神を倒すために削ぎ落とした、セラの痛覚や心、記憶。狂神がセラに遺していった、身体を蝕む呪い。

「平和が訪れる」ことと、「平和をもたらした勇者たちが幸せになる」ことが、同一でない。むしろ二律背反の関係になっているのだ。

そして、狂神を倒した世界で、旅の時以上に、ジャンが奔走する。セラが心と記憶を失うまでに至った経緯、狂神を倒してもなお穏やかな生活に戻れない、セラの使命の重さがを知ってもなお、抗い続ける。かつて手放してしまったもの、セラとの幸せを掴みとるため。

だからこそ、惹かれてしまったのかもしれない。目の前にある筈のハッピーエンドが、限りなく遠く、読んでいるだけで幸福感と悲痛さで心がぐちゃぐちゃにかき乱されたのだから。

ワクワク感を、もう一度

何かしら変化球のあるテーマが昨今のラノベに多いが、『君ここ』は王道を貫いてきた。

ただ一点、既に一つの旅を終えた、という点が、見える世界を180度変えていく。

ある人は訪れた平和を噛みしめ、またある人は、勇者の旅で生まれた犠牲、傷跡を隠しきれないまま周囲の世界は展開される。

セラ自身も、呪いを背負うだけでなく、狂神を倒しただけの超常的能力を手にしており、それを使うことに抵抗を持っている。

そんな、馴染みのある世界観なのに、何もかもが変わった世界。

しかし、そんな物語を望んでいたのかもしれない。

一度ピリオドの打たれた物語から、もう一度冒険が始まっていく物語を。

だからこそ、本記事序文のように、どこか懐かしくも、ワクワクする思いを抱いたのかもしれない。

まとめ LINEノベルの将来に抱く期待

正直に白状すると、読み始める前は、昨今のよくあるファンタジー・勇者ものだと変な先入観を持っていた。

しかし、それはページを進める度にどんどんと覆され、気づけば最後のページまで読んでいた。

読み終わった後、幾分かのモヤモヤと充足感を抱えながら、「二巻は⁉︎ 二巻はまだ⁉︎」と思った時点で、見事に作品の虜になっていたのだ。

こんな読書体験を、しかも新レーベルで味わえたのだから最高だ。

他の作家勢も豪華ということなので、LINEノベルの今後に期待が高まってきた。

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